ステンレス鋼≒さびない
別記事にて、ステンレス鋼がさびない理由を説明しました。
ステンレス鋼は名前にもなっている通り、さびにくい材料ですし、一般的にもさびないイメージがあると思います。しかし、上の記事の最後にも説明したとおり、条件によってはさびることがあります。今回はステンレス鋼がさびる条件について説明します。
ステンレス鋼がさびる条件
上の記事で解説したとおり、ステンレス鋼は表面に「不働態被膜」と呼ばれる薄く緻密な酸化膜を形成します。この不働態被膜が材料表面を覆うことにより、材料本体をさびから守っています。逆に言えば、不働態被膜が形成されない条件のもとでは、ステンレス鋼はさびやすくなります。
以下に、ステンレス鋼がさびやすい条件を紹介します。
塩化物イオン(Cl–)が存在する …「孔食」
メカニズム
塩化物イオン(Cl–)が存在すると、ステンレス鋼はさびやすくなります。代表的な環境としては海水中が挙げられます。塩化物イオン以外のハロゲン化物イオン(フッ化物イオンF–, 臭化物イオンBr–, ヨウ化物イオンI–)でも同じようなはたらきがありますが、塩化物イオンは自然界や日常生活中にも多く存在し、問題になる機会が多いことからここでは塩化物イオンを主に扱います。
塩化物イオン(Cl–)のはたらきにより、局部的に不働態被膜が破壊されます。不働態被膜が破壊された箇所とそうでない箇所の間で電位差が発生することで電気が流れ(電子の移動が起き)、ステンレス鋼中の鉄(Fe)やクロム(Cr)がイオンとなって水中に溶け出し、腐食が進行します。局部的に腐食が進むため、小さな表面の穴から内部に腐食が進行していき、深い穴(ピット)となります。この現象を「孔食」と呼びます。
いったん孔食が進行すると、ピット内で金属イオンと水との反応により、水素イオン(H+)が発生することで、pHが低下し酸性環境になります。そのためさらに腐食が進みやすくなります。急速に腐食が進む特徴があります。
対策
塩化物イオン(Cl–)が高濃度で存在する環境で使用する場合は、設計時に耐食性の高い材料選定が必要です。高耐食性ステンレス鋼と呼ばれ、耐食性に効果のあるクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)含有量の高いSUS312L、SUS836L、SUS329J4L、SUS329J4Lなどの鋼種は海水環境や食品プラントで使用されています。その中でも、特に高い耐食性を示す鋼種はスーパーステンレス鋼と呼ばれています。
小さなすき間がある …「すき間腐食」
メカニズム
塩化物イオン(Cl–)が存在する溶液中で、10μm程度のすき間が存在する場合、腐食が起きやすくなります。「すき間腐食」と呼ばれる現象です。
メカニズムは前項の塩化物イオン(Cl–)が存在する場合で説明した孔食と同様です。すき間の内部に塩化物イオン(Cl–)が滞留して不働態被膜が破壊されること、電位差が発生して電気が流れることで発生した水素イオン(H+)によりpHが低下することで金属の腐食が進みます。すき間が10μm程度になるとイオンが内部に滞留しやすくなるため、すき間腐食が発生します。
対策
前項で説明した材料選定に加え、すき間腐食は部材の設計により防止できることがあります。
ボルトと部材などの間にすき間が発生しないようにする、もしくはすき間を大きくする対策をすることで、すき間腐食の発生を防止することができます。
異なる種類の金属と接触する …「ガルバニック腐食」
メカニズム
水中などの電気が流れやすい環境で異なる金属が接触している場合、片方の金属が腐食する現象が起きます。「異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)」と呼びます。
金属には、種類により固有の電位があります。異なる種類の金属を接触させると、電位の高い金属から電位の低い金属に電気が流れます。金属どうしが接触するだけでは反応は進みませんが、水などの溶液中では溶液を通して反応が進みます。電子の流れは電気と逆になるので、電位の低い金属から電位の高い金属に電子が移動し、電位の低い金属は金属イオンとなって溶液中に溶け出し腐食します。
例えば、ステンレスと鉄の配管を接続すると、電位の低い鉄の配管の腐食が進行します。鉄とアルミニウムの部品を直接接続すると、電位の低いアルミニウム部品の腐食が進行します。
対策
直接接続する部品は、鉄系の材料どうし電位の近い材料を選定します。異種金属を接続する場合は、絶縁材を挟む、絶縁性のある表面処理をする等の対策により、電気が流れる接続方法を避ける必要があります。
高温にさらされる …「粒界腐食」
メカニズム
500℃~800℃の高温にさらされると、耐食性が低下して腐食することがあります。「粒界腐食」と呼びます。
通常、ステンレス鋼中にはクロム(Cr)が分散しています。別記事で解説したとおり、クロム(Cr)と酸素が結びつくことで不働態被膜を形成し、耐食性が生まれます。
しかし、500℃~800℃の高温にさらされると、クロム(Cr)が炭素(C)と結合し、金属結晶の境目(結晶粒界)に化合物をつくります(析出)。化合物にクロム(Cr)を奪われた粒界付近では、クロム(Cr)が少ない状態となります。十分に不働態被膜を形成できないため、腐食しやすい状態となります。この状態を鋭敏化と呼びます。
この状態で腐食環境におかれると、クロム(Cr)の欠乏している粒界付近が腐食するため、粒界腐食と呼ばれています。
不適切な熱処理や、溶接の熱により発生します。
対策
500℃~800℃の温度になる工程を避けることが最も確実です。
避けることが難しい場合、粒界腐食が発生しにくい材料を選定する、溶体化処理をするといった対策を行う必要があります。
粒界腐食の原因となる鋭敏化は、クロム(Cr)が炭素(C)と結びついて化合物を形成することで生じます。炭素含有量の少ない鋼種(SUS304L、SUS316L)や、チタン(Ti)やニオブ(Nb)といったクロム(Cr)よりも炭素(C)と結合しやすい元素を添加した鋼種(SUS321、SUS347)を使用することで、鋭敏化を抑制することができます。
ステンレス鋼の鋼種
ステンレス鋼の鋼種は多数あるが、JIS規格で成分、強度等が定められているものは「SUS〇〇〇」という鋼種名で呼ばれる。最もポピュラーなのはSUS304。本項で登場したSUS304LのLは「Low carbon =低炭素」の頭文字であり、SUS304では0.06%に対してSUS304Lでは0.03%に炭素(C)の含有量が抑えられている。
溶体化処理とは、化合物として粒界に析出したクロム(Cr)を、再び金属中に分散させるために行う処理のことです。1000℃程度に加熱し、クロム(Cr)を分散させたのちに急冷します。
まとめ
ステンレス鋼がさびる条件を紹介しました。
さびない金属というイメージがあるステンレス鋼ですが、条件によってはさびることがあります。また、使用する条件に合わせ、様々な鋼種が開発されています。環境に合った最適な材料選定をすることや、適切な処理をすることで、材料本来の性能を発揮することができます。
そのためには、ステンレス鋼の性質を発揮する原理を知ることが非常に重要です。本記事がその助けになれば幸いです。

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